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Perfect Day 9

ひかりのなかで、目を覚ます

夏のあいだに、ベッドのよこの窓を開けたまま

眠りにつく癖がついた

 

窓からはいる空気が

夏のそれとはまったく異なる

秋めいていることに気がつく

 

きょうから、秋が始まった

 

ベッドから抜け出して

そのほかの窓をひとつずつ開けながら

きょうが完ぺきな一日になることを、予感する

 

窓から外を見つめると

庭の木が、折れている

アカシアの樹

三メートルくらいあるから

しっかりと折れているのが見える

 

身支度を終えて

庭にでる

葉も、たわわによこたわる樹は

おおきな鳥のようだ

 

ひとがまばらで、静かな電車に揺られて

夢中になっている本を読んだ

耳にはイヤフォン

おなじ曲を繰り返し、飽きずに聴く

 

深く呼吸をしている意識のなかで

そのうちにお腹のあたりがあたたかくなって

うたた寝をしてしまう、みじかく夢を見る

 

高校卒業間近の教室

いまはもう会わなくなってしまったひとたち

お互いがお互いを

大切におもっていることが、伝わるくらいの

温度と距離感

卒業してしまったら関係は

かたちを変えてしまうこと

それぞれが、理解している

 

それとなくおもいを言葉で伝えながら

時間が過ぎていくのを、惜しみながら

 

懐かしい気持ちで目が覚める

夢の中であっても

ひさしぶりに再会できた

どうか元気でいてくれ、ともおもう

 

ダンススタジオに到着

ストレッチをして

からだが整っていく

まえは精一杯だったことも

だんだんと、馴染んでいく

 

どこまでも手足が伸びていきそう

たくさん汗をかいて、水を飲む

その余韻に浸りながら

スタジオをあとにする

 

たまたま見つけた町中華

厨房に、そしてフロアに

活気があって

そしてなおかつ

とてもおいしい

 

常連らしきお客さんたちとテレビを囲む

秋の町を、散歩

あたらしい口紅を買う

古本屋で、本と漫画を買う

探していたDVDを安くゲットする

いい色、かたちのヴィンテージブラウスをみつける

 

スーパー銭湯へ

いたるところで、水という水が落下する音で

耳が、いっぱい

椅子がタイルの上を滑る音も、あちこちから

鳴り響くのが、なんだか心音のようだなあと

 

ひとはからだが大部分を占めていて

顔の範囲はほんとうにすくない

なんどもおもうことをまた、おもう

 

いろんな年月を経た

いろんなかたちのからだと、その動き

 

炭酸風呂にはいって、泡だけを見つめる

だんだんと、時間が抜け落ちていく感覚

 

サウナで芯までからだをあたためて

目を閉じていると

過去も未来も現在もなくなっていく

 

じぶんのからだからこまかい粒子の

湯気が上がっていくのをぼんやりと

 

水を飲んで

ゆっくり服を来て

肌を整えて、髪を乾かして

 

ほかほかのまま、夕方

 

ふいに親しい、ゆきのから

連絡が届いて、会うことに

 

散歩をしていると、お祭りに遭遇

 

「あれ、これって、あのお祭りかも」

「え、どのお祭り」

「ほら、こないだ話した」

 

それは以前から、興味があって

調べていたお祭りだということが、発覚

大興奮、ぐうぜん立ち会うことができて

 

提灯に、あかりが灯って

 

気づいたこと

世のなかのこと

むかしのこと

これからのこと

 

言葉がちゃんと伝わっていると実感する

相手の言葉もよくわかる

 

ながく会話をするなかで

未来の感触をすこし掴む

 

帰宅するまえに、寄り道

ひとりで喫茶店にはいる

 

きょう、一日のことを

おもい返したり

交わした言葉を

反芻したりして

 

きょう買ったものなどを眺める

 

時間は気にせずに、好きなだけ

音楽を流して、あたたかい飲みもの

かるく柔軟体操

 

きょう買ったものなどを、また眺める

 

本をすこし読んで、電気を消す

窓をひとつ開けてぐっすり眠る

 

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