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2020年12月の「cocoonに向けたWORK」は、12月17日と18日の二日間にわたっておこなわれた。12月17日の新規感染者数は822人となり、過去最多を更新した。「WORK」が始まるのは11時からだ。作業が始まる前にお腹を満たしておこうと、コンビニで赤飯おにぎりを買って、森下スタジオに向かう。共用スペースとなるロビーは、感染症対策のため飲食禁止になっている。もしも自分が感染していたらと思うと、スタジオの中でマスクを外すのが憚られてしまって、おにぎりを一気に頬張り、スタジオに入る。

「今日も、昨日に続けて作業をやっていきたいんだけど、もうひとつ質問したいことがあって」。藤田君が皆を前に言う。

「後悔してることって、みなさんありませんか。『あれは罪深かったな』みたいなこと。ただ――あれはやめよう。付き合っていた人のこととかは、きりがない気もするから、やめにしよう。そういうんじゃなくて、『あのとき、あの人にああ言ってしまった』みたいなことって、ありませんか。まあ、無限にあると思うんですけど。僕が今、パッと思い浮かぶのは――小さい頃に『聖闘士星矢』って漫画が流行ってたんですね。その漫画には星座ごとの“ゴールドクロス”って防具が出てくるんだけど、うちの弟は蟹座なんですね。蟹座のゴールドクロスの人形があって、蟹の足みたいになってるんだけど、そこを弟がいじりすぎてぐにゃぐにゃになってたの。それを僕が、よかれと思って、ハサミで全部切っちゃったんだよね。そしたら、弟の恭平君は、『お兄ちゃんが切ったんだから、きっとこっちのほうが格好良いんだよね?』って顔で人形を見つめてたんだけど、恭平君はその部分が好きだったはずなんだよ。だって、ぐにゃぐにゃになるぐらいいじってたわけだから。そこで、『兄ちゃんが切ったんだから、こっちのほうが格好良いんだ』と思いたい気持ちと、好きだった部分がなくなってしまったって気持ちのあいだで葛藤する表情を見たときに、すごい後悔した。なんで切っちゃったんだろう、って。そういうレベルのことってありませんか?」

藤田君は順番にひとりずつ質問してゆく。「一回パスして考えるってのもありだから」と告げると、何人か立て続けにパスをして、考え込んでいる。

「じゃあ次、猿渡」。質問を向けられた猿渡遥さんは、小さかった頃の記憶を語る。

「小学校のとき、私は合唱をしてたんですけど、年に一回は発表会があるんですね。そういう発表会のとき、両親と弟が一緒に観にきてくれて。特になんとも思ってなかったんですけど、弟が大きくなってから、『お姉ちゃんは発表会を観てもらえてたけど、僕はあんまり試合とか観てもらえなかった』って言ってて。弟の試合がある日って、私は合唱の稽古が入ってることが多かったから、家族皆で弟の試合を観戦しに行ったことってなかったんです。それに全然気づいてなくて。弟にそう思わせてしまったんだってことを含めて、ああ、試合を観に行ってあげればよかったって、あとになって後悔しました」

「あるよね、そういうこと」。藤田君が言う。「僕は小さい頃から演劇やってたけど、演劇って観劇するものだから、両親は必ず観にきてくれてたんだよね。でも、弟は卓球とかバレーボールとかやってたんだけど、試合の回数が多いせいもあって、毎回家族で観に行くとかってことにはならないんだよね。だから、食卓で話題にあがるのは演劇の話ばっかりみたいな状況になってることがあって、そういう状況に気づくと、ちょっと切なくなるよね」

藤田君は二人兄弟の兄だ。

二人兄弟の弟として生まれた僕は、こんなふうに兄が弟に対して「切なくなる」と言うのを聞くと、ちょっとずるい、と思ってしまう。

「これは保育園に通ってた頃の話なんですけど」。佐藤桃子さんが言う。「保育園の中だと、いつもは上履きで歩くんですけど、その日はビニールシートが敷いてあって、靴を脱いでビニールシートに上がっていて。その端っこに、先生が脱いだ上履きが置いてあったんですけど、私より小さい子がその上履きに触ろうとしたとき、私が咄嗟に『それ、ばっちいから触っちゃ駄目だよ』って――」

「ああ、言っちゃったんだ?」

「それを言った瞬間に、先生ふたりが『あ、ばっちいって思ってるんだ』って感じになって。別にばっちくないかもしれないのに、そんなこと言っちゃって。先生たちは顔を見合わせてて、すごい申し訳ない気持ちになったのをおぼえてます」

「なんか、つい言っちゃったってことだよね」と藤田君。「だからやっぱり、言葉っていうよりも、表情から察することって後悔に繋がる気がする。そんなこと思ってるわけじゃないのに、思っている以上のことを誇張して言っちゃうことってあるじゃん。そのちょっと誇張した部分が、誰かを傷つけちゃうことって、たしかにあるよね。いや、この話を聞いていくのは面白いな」

「私が通っていた中学校は、できたばかりの新しい中学校だったから、通ってる生徒がほんと少なくて」。小泉まきさんが言う。

「まきちゃんが一期生ってこと?」

「そうそう。1年生は20人ぐらいしかいなかったから、女子が8人か9人しかいなくて、女子のグループもふたつしかなかったの。私が属してるのは、どっちかっていうと暗いグループで、残りが明るいグループ。それで、この暗いグループにはAさんって子がいて、その子はちょっと女王様みたいな感じだったから、私たちは『A様!』って感じだったの。それで、このグループにBさんって子もいるんだけど、Bさんはめちゃくちゃ頭が良くて、物静かで、いい人でね。Aさんがいないとき、『Aさん、ひどいよね』みたいなことを言いながら、私はBさんと心の交流をしてたの。それがある日、明るいグループの人たちに私が気に入られて――」

「まきちゃん、気に入られそうだね」

「『なんでまきちゃんがそっちにいるの?』みたいに言われて、Bさんからも『いや、まきちゃんは向こうのグループだったよ』『私のことは気にしないで、向こうに行きなよ』って言われて、そっちのグループに行ったんです。それからしばらく経って、中間テストの答案が返ってきた日に、その明るいチームの人たちと放課後しゃべってたの。『テスト、何点だった?』『いや、ヤバかったよ』みたいな感じでね。そしたら教室にBさんが入ってきたから、私が『Bさんは何点だった?』って聞いたの。Bさんは『いや、そんな』みたいな感じだったのに、私が聞いてるうちに明るいグループの子たちも『見せてよ、見せてよ』ってなって、見せてもらったら100点だったのね。それで私が、『すごい、Bさん超頭いいじゃん!』って言ったら、Bさんはなんとも言えない表情で教室を出て行って。そういえばBさんって、頭良いって言われるのが嫌な人だったって、あとで気づいて。Bさんとは心の交流をしてたのに、この明るいグループのネタにしちゃって。そのときのBさんの顔がね――Bさんはほんとに傷ついちゃって、それからBさんとはしゃべれなくなった」

「ひなちゃんは何か、後悔してることってありますか?」

藤田君にそう問いかけられた須藤日奈子さんは、しばらく考え込んで、「後悔したことはあるんですけど、何で後悔したのか、忘れちゃってると思います」と答えた。

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